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人工呼吸器って、どんなもの? 人ごとではない人工呼吸器の不足とは

2020/04/04 更新日:2023/10/11

人工呼吸器の不足は人ごとではない

今、新型コロナウィルスで、世界的に人工呼吸器が足りないと言われています。これって大変なことなんです! 人工呼吸器が足りなくなると、医療に大きな影響が出てしまいます。自分には関係ないと思っている若い人も、人工呼吸器が足らなくて適切な医療が受けられなくなるかもしれません。それは人工呼吸器が使われているのが、新型コロナウィルスの患者さんだけではないからです。

 
 
人工呼吸器は、どんなもの?
人工呼吸器は、自分で呼吸できないときに、替わりに肺に酸素を送ってくれる医療機器です。簡単に言うと、口や鼻の穴からチューブを気管支まで入れて肺に空気や酸素を送り込む装置です。喉のところを切ってチューブを入れる場合もあります。送り込む空気も患者さんの状態によって酸素濃度が高いものに切り替わります。よくドラマなどで顔にマスクをしている患者が出てきますが、あれは酸素マスクです。人工呼吸器は酸素マスクとは違います。がっつり喉の中にチューブ入っています。

 
 


 

イラストのように人工呼吸器ではチューブが口から気管支まで入っています。さらに喉に入れたチューブが外れないようにチューブを顔にテープで固定します。よく医療ドラマで「気管挿入!」と叫んでいるのは、これを入れているんですね。
 
私は、アメリカの国立病院V.A. Medical Center(アメリカ退役軍人省所属退役軍人病院)を見学させていただいたときに、この気管挿入を体験したことがあります。患者が急変した場合のシミュレーションだったのですが、人形モデルでも気管挿入は、とっても難しかったです。カメラで口内を見ながらチューブを入れる気管を探すんですが、食道に入っちゃったり、気管を見つけても、弾力があってなかなか入らないんです。結局、気管にチューブを入れることはできませんでした。あれをスルッと入れられるお医者さまは本当に尊敬します!
 

V.A.の写真です。右端の方が指導教官のウェンディさんです。この後のフィードバックで彼女から「あなたは30秒前に貴代の後ろにいるべきなのよ。なぜなら患者に心臓マッサージを継続的に行うには…」と笑顔で問題点をグサグサと指摘されました。日本では絶対できない貴重な体験をさせてもらいました。指導は容赦なかったけど…( ̄▽ ̄;)

 

V.A. Medical Center のお話は、本の原稿を書き終えたらブログに載せる予定です。ちょっと、今は出版予定の本の原稿が手一杯で写真や資料を探す暇がないので…。
 
 
どんなときに人工呼吸器が使われるの?
基本的に自分で呼吸ができなくなっている患者が対象です。自分で息をすることができない患者の呼吸を助けるのが人工呼吸器です。新型コロナウィルスの患者さんは、気管支や肺でウィルスが増殖します。酸素と二酸化炭素を交換している肺に炎症が起きてしまうので、体に十分な酸素が取り入れられなくなります。そうなると自分で呼吸するだけでは酸素が足りないので人工呼吸器のお世話になります。


 
自力で呼吸ができるようになれば人工呼吸器は取り外されます。逆に言えば、自力で呼吸できるようにならない限り、人工呼吸器は取り外せないのです。なので、人工呼吸器をつけるときには、基本的に患者さんにつけるかどうかの意思確認を行います。(緊急で意識がない場合は別です)人工呼吸器を医師が勝手に取り外すことはできません。厚生労働省は、患者本人の意思を確認できないときは、患者が信頼する家族や家族等(親しい友人)が代わりに決定できると「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を出していますが、倫理的、法的に難しい問題を孕んでします。人工呼吸器の取り外しで裁判とかもありましたしね。それに、実際に家族として取り外しに同意できるかと言うと…難しいですよね。
 
 
人工呼吸器が足りなくなると…
問題は人工呼吸器を使うのが、新型コロナウィルス患者だけではないことです。人工呼吸器は、交通事故や脳出血などの患者さんにも使われています。また、大きな手術で全身麻酔を使う場合にも人工呼吸器は使われています。私は3回、全身麻酔で手術したことがありますが、3回とも人工呼吸器のお世話になりました。新型コロナウィルスで人工呼吸器が足りなくなれば、交通事故で病院に運ばれてもICU(集中治療室)に人工呼吸器がなくて助からない! がん患者さんが必要な手術ができない!ということもあり得るのです。連日ニュースで人工呼吸器が取り上げられているのは、それだけ大きな影響があるからです。
 
 
命を選択するトリアージの可能性

本当に人工呼吸器が足りなくなった場合は、誰に使うか選択しなければならなくなります。厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(令和2年4月1日)」で次のように述べています。

(3)医療崩壊に備えた市民との認識共有

〇我が国は、幸い今のところ諸外国のようないわゆる「医療崩壊」は生じていない。

今後とも、こうした事態を回避するために、政府や市民が最善の努力を図っていくことが重要である。一方で、諸外国の医療現場で起きている厳しい事態を踏まえれば、様々な将来の可能性も想定し、人工呼吸器など限られた医療資源の活用のあり方について、市民にも認識を共有して行くことが必要と考える。
「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」より抜粋

 

これはおそらくイタリアや中国で起きたのと同じような状況を想定しているのではないでしょうか。人工呼吸器が足らなくなったとき、誰に優先して使うかトリアージが行われます。トリアージは災害や大きな事故など、一気に大量に患者が殺到した場合に、患者を重症度によって治療を受けられる順番を選別することです。患者に黒や赤、黄色のタグをつけて、回復の見込みのない患者には治療を行わない選択もします。トリアージは、とてもシビアな命の選択なんです。
 

日本公衆衛生学会は令和2年3月27日に「新型コロナウイルス感染症対策についての声明(第 2 報)」で次のように述べています。

感染のオーバーシュートが発生すると、医療器材(人工呼吸器や体外式膜型人工肺など)の需要が急激に拡大し、大きく不足することが予測されます。このことはすでに中国、イタリア、スペインなどの感染のオーバーシュートがあった海外で示されています。その場合に救える重症患者への治療を優先するトリアージが必要となります。国はトリアージの方針をあらかじめ地域医療機関と共有すると共に住民の理解を求めておくことが望まれます。また、国には、都道府県や保健所がトリアージを行うための基本指針を策定しておくことを求めます。

公衆衛生(Public Health)は、社会全体の人間の健康に関わる問題を、個人ではなく社会的に集団で解決します。市や町、国レベルで対応策を考えるので、今、まさにその状態に日本はなっているんです。
 
 

また、生命・医療倫理研究会は令和2年3月30日に人工呼吸器が足りなくなった場合のフローチャートを公開しています。作成には医師や看護師だけでなく、弁護士や倫理学者も関わっています。

 

これによると、最終的に救命できない患者には、人工呼吸器を取り外して他の患者に与えることまで考えられています。でも、それは最低、最悪、最終の手段です。その前に他院で対応できないかなど、患者を助ける選択肢も提言では述べています。このフローチャートはとてもよく考えられていると思いますが、実際に日本でこのようなことが起きないのを祈っています。

令和2年4月3日に政府は、人工呼吸器の増産を要請し、メーカーが増産する際の費用を全額補助する方針を打ち出しました。本当に医療崩壊なんて考えたくもないので、早く、現場に届いて欲しいです。

感染を拡げないために、できること
政府の専門家会議の提言によれば「多くの人が換気が悪い密閉空間に集まって会話すると感染リスクが高くなる」と述べています。

 
 
感染を防ぐには手洗いが重要です。外出から帰ったときや食事の前やトイレの後の十分な手洗いで感染リスクを確実に減らせます。(手洗いに関するブログはこちら)感染する人が減れば、新型コロナウィルスを封じ込めることができます。新型コロナウィルスで人工呼吸器が不足し、普通に受けていた治療が受けられなくなる状況が目前に迫っています。世界中、どの国も封じ込めに頑張っています。手洗いや外出を控えるなど、自分にできることで新型コロナウィルスの封じ込め作戦に参加しませんか?
 
 
追記(令和2年4月7日19:00)
先ほど緊急事態宣言が発令されました。東京、神奈川、埼玉、千葉、 大阪、兵庫、福岡の7都府県が対象ですが、それ以外の道県でも不要な外出は控えましょう。睡眠をしっかり取り、栄養のある食事に規則正しい生活が感染に強い体を作ります。普通に健康的な生活があなたと家族を守ります。次回のブログでは感染に強い生活を早めにアップしますね。

 

 

 

 

 

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